戦略的に会社を利用してみませんか。Ⅲ

法人のメリット(一般的なメリット)

① 社会的な信用力が高まります。
個人事業主の取引業者や債権者などは、
・個人事業主が事業をいつから始めて、どれくらい経過しているのか。
・事業を行っている主な場所は、どこなのか。
・個人事業主以外の者が、本当の事業主であったり、共同経営であったりしないのか。
・現在どのような事業を行っているのか。
・将来どのような事業を行おうとしているのか。
などを確認する方法は、本人の言うことを信用するしかありません。
これらのことは、取引業者や債権者などが、個人事業者と取引を始めるときや取引を増やそうとするとき、不安に感じ取引を始めるのを止めたり、取引を増やすのを中止したりして、取引の拡大の機会を逸することにつながります。
そこで、個人事業を法人にすると。
法人に関しては、以下の事項を法務局に申請し、登記簿に記載しなければなりません。
・法人の商号
・本店所在地
・会社の設立年月日
・目的
・資本金の額
・役員
登記簿を確認すれば、だれでも簡単に法人の情報を確認することができ、個人事業におけるいくつかの疑問は解消されます。
また、法人の経理処理等も、統一された正確な基準よる経理処理が求められているので、その基準により作成された決算書などは、その法人の業績内容を正確に反映したものになります。そして、統一した基準で作成された決算書なので、過去の業績や同業他社の業績との比較も簡単に行うことができます。
このように、法人には個人事業主にない多くの義務が求められているので、その義務を果たすことにより、取引業者や債権者などから信用され取引拡大へとつながっていきます。

② いい人材が集まります。
あなたが就職するとしたら、何を基準に就職先を選びますか。
・安定性ですか。
・成長性ですか。
・給与ですか。
もし、就職先が個人事業主だったら。
・個人事業主に万が一のことがあったら、雇用はどのようになるのか。
・傷病手当や育児休業給付などの補償がある社会保険に加入しているのか。
・家族などの了解は、得られるのか。
などの不安や心配ごとが、法人に就職するときよりも多くなり、優秀な人に就職先として選んでもらい難くなります。
そこで、個人事業を法人にすると。
法人では、経営者に万が一のことがあっても事業継承が行なわれやすいので、廃業の可能性も少なくなり雇用の安定につながります。
法人の従業員は社会保険に加入しなければならないので、社会保険の手厚い補償なども受けられます。
そして、社会的な信用力により家族等の了承も得られやすくなります。
このように、就職に伴う不安や心配ごとを減らせるので、優秀な人に就職先として選んでもらえます。

③ 銀行等からの融資が受けやすくなります。
個人事業主は事業用資産と生活で使っている財産を明確に区分できないので、銀行等からの融資のお金が、事業資金もしくは設備資金に充てられず、すべて生活費に充てられたりします。そして、それを銀行等が検証することも難しかったりします。
その結果として、個人事業主が事業資金や設備資金などの融資を受けるとき、第三者保証や担保などを求められたり、融資の実行が遅くなったり、融資額が減額されたりして、スムーズに融資を受けられなかったりします。
そこで、個人事業を法人にすると。
事業用資産の所有者は基本的に法人となり、事業用資産と生活に使っている財産とが明確に区別できるため、銀行等の融資のお金を生活費に充てることが難しくなり、確実に事業資金や設備資金に充てられるので、銀行等の融資がスムーズに行われるようになります。
また、法人には、設立のときに利用できる開業準備融資などの融資制度があり、融資に関してその窓口が広く開かれています。

④ 決算日や会計期間を任意に選べます。
個人事業主の決算日などは、法律により、
・決算日は12月31日
・会計期間は1月1日から12月31日までの1年間
・申告期限は2月16日から3月15日までの間
と決められており、忙しい時期や都合の悪い時期であっても、決算日、会計期間や申告期限を変更することは、法律で認められていません。
そこで、個人事業を法人にすると。
法人の決算日は、法律による制限はないので、忙しい時期や都合の悪い時期を避けて決算日を決めることができます。また、一度決めた決算日や会計期間を税制改正等に合わせて、節税のために変更したり短縮したりすることもできます。法人の申告期限も決算日から2ケ月以内となっていますが、これも1ケ月間延長して3ケ月以内とすることができます。

⑤ 事業用資産の移転の簡素化により事業の承継(家族内移転)が行いやすくなります。
個人事業主に万が一のことがあったとき、個人事業主名義の預貯金が、事業用もしくは生活用に関係なくすべて凍結されるため、売上代金の入金ができなくなったり、事業の経費や給与の支払いもできなくなったりして、事業の遂行に支障をきたします。
また、相続財産には、土地や建物の事業用不動産なども含まれるので、その事業用不動産を含まないときに比べて相続税が高額となります。そして、その相続税を納めるのに事業用資産を売却することもあり。もし、売却する事業用資産が事業の遂行に必要不可欠な事業用資産であれば、事業が継続できなくなったりします。
そこで、個人事業を法人にすると。
経営者に万が一のことがあっても、基本的に法人のものは経営者の相続と無関係になります。
法人名義の預貯金は凍結されないので、お金の入出金はいつでも可能です。事業用資産を法人に変更していれば、経営者の相続財産に関連して売却されることは回避できます。そして、事業用資産が、相続財産に含まれないので相続税が少なくなります。ただし、事業用資産の代わりに法人の株式を所有するので、その株式の相続対策が必要になります。
また、事業用資産を法人に変更し代わりに法人の株式を所有すると。
事業用不動産を複数の相続人へ分割するのは難しいですが、株式であれば複数の相続人に分割するのも簡単にでき、相続によるトラブルにも対応しやすくなります。

⑥ 事業用資産の移転の簡素化により事業の承継(第三者移転)が行いやすくなります。
個人事業主の後継者は、個人事業主の相続人である家族(子供)などが多いです。その理由として、事業用資産と生活で使っている財産を明確に区分できないので、事業用資産だけを第三者の事業継承者に売却できず、事業用資産を引き継げる者は、生活で使っている財産といっしょに引き継げる者に限られるからです。これは、事業を遂行する能力のない家族が事業を承継することになり、その結果として、事業の衰退につながったりします。
そこで、個人事業を法人にすると。
事業用資産を法人に変更すれば、経営者は、株式の所有することによって、間接的に事業用資産を継続所有することになります。
そして、第三者への事業承継のときは、事業用資産の売却を行うのではなく、株式を売却するだけで事業承継が済み、事業承継が容易に行えるようになります。その結果として、事業の遂行能力のある第三者への事業承継ができ、経営者の交代による事業の衰退を防ぐだけでなく、経営者の交代による事業の更なる発展も期待できます。

⑦ 創業や異業種への進出について補助金や助成金がもらいやすくなります。
銀行等からの融資は、必ず返済しなければなりませんが、補助金や助成金は、銀行等からの融資とは違い、基本的に返済しなくてもよいです。
就職困難者の採用などを要件とする助成金は、個人事業主であっても法人であっても要件に大きな違いはありませんが、創業や異業種への進出などを要件とする補助金や助成金などは、創業や異業種への進出などについて厳しい審査が行われ、創業の日時が証明できなかったり、異業種への進出を証明するものがなかったりして、補助金や助成金をもらえなかったりします。
そこで、個人事業を法人にすると。
創業については、法人を設立したことにより、また、異業種への進出については、法人の目的の変更により、客観的に証明することができ、手続きの省略化が図られます。
また、法人だけを対象とする高齢者等共同就業機会創出助成金などの受給も可能となり、助成金の範囲も広がります。