戦略的に会社を利用してみませんか。Ⅳ

法人のメリット(お金のメリット)

① 給与所得控除の利用により節税ができます。
個人事業主の税金(所得税及び住民税)の計算は、事業収入から必要経費を差し引いて事業所得を計算します。そして、その事業所得から扶養控除などの所得控除を差し引いて課税所得を計算し、この課税所得に税率(資料A)をかけて税金を計算します。
(個人事業主の税金)
・事業所得=事業収入-必要経費-青色申告特別控除
・課税所得=事業所得-所得控除
・税  金=課税所得×税率
また、サラリーマンなどの給与収入者の税金の計算は、給与収入から給与所得控除(資料B)を差し引いて給与所得を計算します。そして、給与所得から扶養控除などの所得控除を差し引いて課税所得を計算し、この課税所得に税率をかけて税金を計算します。
(給与収入者の税金)
・給与所得=給与収入-給与所得控除
・課税所得=給与所得-所得控除
・税  金=課税所得×税率
そこで、個人事業を法人にすると。
法人の利益は、収入から経費を差し引いて利益を計算します。個人事業も同じように収入から経費を差し引いて利益を計算しますが。その経費の概要が違い、法人の経費の中には、経営者への給与(役員報酬等)も含められます。
(利益の計算方法の違い)
・個人事業 事業所得=事業収入-必要経費-青申控除
・法  人 利  益=収  入-経  費-経営者の給与
そして、その経営者の給与は、給与収入として取り扱われるので、経営者の税金を計算するときは、給与収入から給与所得控除を差し引くことができ、給与所得控除の利用により課税所得が減額されて税金の節税ができます。
(経営者の税金)
個人事業のとき
・事業所得=事業収入-必要経費-青申控除
・課税所得=事業所得-所得控除
・税  金=課税所得×税率
法人のとき
・給与所得=給与収入-給与所得控除
・課税所得=給与所得-所得控除
・税  金=課税所得×税率
具体的に所得税で計算すると。収入3000万円、経費2500万円の事業について、(所得控除は基礎控除のみ)
(個人事業主の所得税)
・課税所得=事業収入-必要経費-青申控除-所得控除
     =3000万円-2500万円-65万円-38万円
     =397万円
・所得 税=課税所得×税率
     =3,970,000円×20%-427,500円
     =366,500円
となります。
法人の利益を先に計算して、
・法人利益=収入-経費-給与
     =3000万円-2500万円-500万円
     =0円
となります。法人の利益がゼロなので法人の税金はありません。
(経営者の所得税)
・課税所得=給与収入-給与所得控除-所得控除
     =500万円-154万円-38万円
     =308万円
・所得 税=課税所得×税率
     =3,080,000円×10%-97,500円
     =210,500円
となります。
(所得税の差額)
・差  額=366,500円-210,500円
     =156,000円
になります。
このように収入や経費が同じであっても、給与所得控除による税金の節税ができます。

② 所得分散により節税ができます。
現在の日本の所得税の税率は、所得が多くなればなるほど税率が高くなるという超過累進税率となっています。
事業所得や給与所得などが多くなり、一定額を超えるとその超えた金額について高い税率が適用され、さらに次の一定額を超えるとその超えた金額についてさらに高い税率が適用され、所得税の負担がうなぎ上りに増える税率構造となっています。
この超過累進税率による高税率を回避するには、家族などへ給与を支払って個人事業主の課税所得を分散することが必要です。しかし、個人事業主から事業を手伝っている家族(事業専従者)に支払う給与は、労働(時間を基準に判断する)の対価であり、労働時間の短い事業専従者や単純労働の事業専従者には、多くの給与を支払えないので、所得分散が効果的に行われず、超過累進税率による高税率を回避できません。
また、個人事業主から給与を受ける事業専従者は、他の者からの給与を受けることや自ら事業を行うことができないなどの制約もあります。
そこで、個人事業を法人にすると。
家族を法人の役員に就任させて、法人から家族に給与または役員報酬を支払います。
この役員報酬は、労働を基準とする対価として支払われるものではなく、役員という重要な職務の対価として支払われるものなので、それほど労働時間が長くなくても重要な職務を遂行していれば、高額な役員報酬を支払うことができ、所得分散が効果的に行われ、所得税の超過累進税率による高税率を回避することができます。
具体的に所得税で計算すると。給与総額1,000万円(所得控除は基礎控除のみ)
(1人で1,000万円の所得税)
・課税所得=給与収入-給与所得控除-所得控除
     =1,000万円-220万円-38万円
     =742万円
・所得 税=課税所得×税率
     =7,420,000円×23%-636,000円
     =1,070,600円
となります。
(2人で等分した500万円の所得税)
・課税所得=給与収入-給与所得控除-所得控除
     =500万円-154万円-38万円
     =308万円
・所得 税=課税所得×税率
     =3,080,000円×10%-97,500円
     =210,500円
となります。給与を2人で分散しているので、その総額は、
・総  額=210,500円×2人
     =421,000円
となります。
(所得税の差額)
・差  額=1,070,600円-421,000円
     =649,000円
になります。
このように所得税の超過累進税率による高税率を回避することにより所得税の節税ができます。

③ 経営者への退職金の支払いにより節税ができます。
個人事業者が、従業員などの退職について退職金を支払ったときは、その退職金は必要経費となりますが。個人事業主やその事業専従者が、退職して退職金を支払ったときは、個人事業主には退職という考えがないのか、個人事業主から個人事業主への支払いは資金的に移動がないのか、個人事業主の必要経費として認められません。
そこで、個人事業を法人にすると。
退職金を支払う者は、個人事業主から法人に変わり、退職金を支払う者と退職金を受け取る者とが異なるので、経営者やその家族の退職について支払う退職金は、適正な退職金であれば法人の経費として認められます。
また、退職金の税金は、退職金収入から退職所得控除を差し引いて、さらに差し引き金額の1/2のみに税金が課税されたり、退職金はその他の所得との合算を行わないので、所得税の超過累進税率の高税率を回避できたりして、税金の節税ができます。
(給与の税金)
・給与所得=給与収入-給与所得控除
・課税所得=給与所得-所得控除
・税  金=課税所得×税率
(退職金の税金)
・退職所得=(退職金収入-退職所得控除)÷2
・課税所得=退職所得-所得控除
・税  金=課税所得×税率

④ 経営者への出張日当の支払いにより節税ができます。
出張などについて日当が支払われることがあります。この日当は、従業員の出張について日当を支払ったときは、適正な日当であれば個人事業の必要経費となりますが。個人事業主やその事業専従者の出張について日当を支払ったときは、退職金と同じように個人事業主から個人事業主への支払いとなり資金的に移動がないので、必要経費として認められません。
そこで、個人事業を法人にすると。
日当を支払う者は、個人事業主から法人に変わり、日当を支払う者と日当を受ける者とが異なるので、経営者や役員または従業員である家族の出張について支払う日当は、適正な日当であれば法人の経費として認められます。
また、適正な日当であれば、受け取った本人についても税金が課税されません。

⑤ 経営者の生命保険料を経費にして節税ができます。
ほとんどの人が、万が一に備えて生命保険などに加入しているかと思われますが。その保険料は、生命保険の保険金が高額になると支払う保険料も高額になります。
この生命保険の保険料について、所得税では、所得控除として生命保険料控除がありますが、死亡保険などの一般的な生命保険料控除額は、支払い保険料8万円(住民税は5.6万円)で控除額4万円(住民税は2.8万円)であり、それ以上の保険料を支払っても生命保険料控除額は同じです。
つまり、限度額を超えて保険料を支払っても、それ以上の控除は受けられないです。
(個人事業主の税金)
・事業所得=事業収入-必要経費-青申控除
・課税所得=事業所得-所得控除(生命保険料控除を含む)
・税  金=課税所得×税率
そこで、個人事業を法人にすると。
契約者や支払者が法人である生命保険の保険料について、法人が支払った保険料の一定額が法人の経費となります。 
(法人の利益)
・利  益=収入-経費(保険料を含む)-給与
(経営者の税金)
・給与所得=給与収入-給与所得控除
・課税所得=給与所得-所得控除
・税  金=課税所得×税率
具体的に所得税で計算すると。収入3,000万円、経費2,500万円、その他保険料100万円(所得控除は基礎控除と生命保険料控除のみ)
(個人事業主の所得税)
・課税所得=事業収入-必要経費-青申控除-生命保険料控除-所得控除
     =3,000万円-2,500万円-65万円-4万円-38万円
     =393万円
・所得 税=課税所得×税率
     =3,920,000円×20%-427,500円
     =356,500円
となります。
個人事業主が多額の保険料を支払っても、所得税の所得控除としての控除できる金額は、4万円が限度となります。
しかし、法人で生命保険の契約をして支払った保険料を経費にしたとき。
法人の利益を先に計算して、
・法人利益=収入-経費-保険料-給与
     =3000万円-2500万円-100万円-400万円
     =0円
となります。法人の利益がゼロなので法人の税金はありません。
(経営者の所得税)
・課税所得=給与収入-給与所得控除-所得控除
     =400万円-134万円-38万円
     =228万円
・所得 税=課税所得×税率
     =2,280,000円×10%-97,500円
     =130,500円
となります。
(所得税の差額)
・差  額=356,500円-130,500円
     =226,000円
になります。
このように支払った保険料を経費とすることにより、課税所得を減額し税金の節税ができます。
ただし、保険金の受取時に注意が必要となります。法人が受け取る保険金は、受取時の収入になり受取保険金に相当する利益が発生しますので、受取保険金に見合う経費を事前に考えておかなければなりません。

⑥ 家族に給与を支払っても配偶者控除や扶養控除の適用により節税ができます。
税金の所得控除である配偶者控除や扶養控除の適用要件は、年間合計所得が48万円以下の扶養親族(生計を同じにする親族)や配偶者となっていますが。家族などの事業専従者に給与を支払ったときは、その事業専従者の給与が、給与収入から給与所得控除を差し引きした給与所得が48万円以下であっても、配偶者控除や扶養控除の適用が受けられません。
そこで、個人事業を法人にすると。
給与の支払者は、個人事業主から法人に変わります。
そして、配偶者や扶養親族は事業専従者に該当しなくなるので、給与収入から給与所得控除を差し引きした給与所得が48万円以下であれば、配偶者控除や扶養控除が受けられ、税金の節税ができます。

⑦ 欠損金の繰越期間が9年間と長くなります。
青色申告をしている個人事業主は、事業などで赤字が生じたとき、その赤字を翌年以降に繰り越すことができます。この欠損金の繰越期間は、赤字が生じた年の翌年以降3年間となっています。そして、赤字が生じた年の翌年以降3年間の合計所得が繰越欠損金より少なく、繰越欠損金が残ったときは、4年目以降に繰り越すことはできず、すべて切り捨てになります。
そこで、個人事業を法人にすると。
法人も同様に欠損金の繰越制度があります。そして、法人の繰越期間は9年間となっており、個人事業に比べて繰越期間が長いので、欠損金を有効的に利用できます。
また、この欠損金の繰越は、一定の期間における所得分散でもあり、一定の期間における給与所得控除の有効利用でもあります。
具体的に所得税で計算すると。年間の利益1,000万円、同期間の給与1,000万円
(経営者の所得税)
・課税所得=給与収入-給与所得控除-所得控除
     =1,000万円-220万円-38万円
     =742万円
・所得 税=課税所得×税率
     =7,420,000円×23%-636,000円
     =1,070,600円
となります。
年間の利益1,000万円、繰越欠損金500万円及び同期間の給与500万円
(経営者の前年の所得税)
・課税所得=給与収入-給与所得控除-所得控除
     =500万円-154万円-38万円
     =308万円
・所得 税=課税所得×税率
     =3,080,000円×10%-97,500円
     =210,500円
となります。
(経営者の当年の所得税)
・課税所得=給与収入-給与所得控除-所得控除
     =500万円-154万円-38万円
     =308万円
・所得 税=課税所得×税率
     =3,080,000円×10%-97,500円
     =210,500円
となります。
(所得税の差額)
・差  額=1,070,600円-210,000円×2年
     =649,000円
になります。
このように2年間で所得分散すると超過累進税率の高税率を回避でき、支払う所得税が少なくなります。ただし、事前に利益の増減が予想でき欠損金の対策ができる場合に限られます。

⑧ 最高税率の違いにより節税ができます。
個人事業主に課される税金と法人に課される税金の税率について、最も高い税率を比較してみると。
個人事業主に課される税金は、所得税、個人住民税と個人事業税です。それぞれの最高税率は、所得税は45%、個人住民税は10%、個人事業税は業種によって税率が異なりますが一般的な業種で5%となっています。
(個人事業主の最高税率)
・負担税目=所得税+個人住民税+個人事業税
・最高税率=40%+10%+5%
     =55%
そして、法人に課される税金は、法人税、地方法人税、法人府民税、法人市民税、法人事業税と地方法人特別税です。それぞれの最高税率は、法人の資本金によって異なりますが、一般的な中小企業の資本金1億円以下の法人では、法人税は23.4%、地方法人税は1.0296%、法人府民税は0.7488%、法人市民税は2.2698%、事業税は6.7%、地方法人税は2.8944%となっています。
(法人の最高税率)
・税  目=法人税+地方法人税+法人府民税+法人市民税+事業税+地方法人特別税
・最高税率=23.4%+1.0296%+0.7488+2.2698%+6.7%+2.8944%
     =約37.0426%
このように個人事業主の最高税率は55%と法人の最高税率の約37%に比べて高くなっており、最高税率適用時の支払う税金が多額になります。
そこで、個人事業を法人にすると。
個人事業主の最高税率55%の高い税率から、法人の最高税率約37%の低い税率に引き下げることができます。その結果、支払う税金が減額され、残ったお金を事業資金として有効に活用できます。

⑨ 事業税の非課税を利用して節税ができます。
事業税は、個人事業や法人を問わず一定の事業(医療法人などを除く)を営んでいる者について、その事業利益や利益に課されます。ただし、赤字であれば事業税は課されません。
(事業税の課税要件)
・個人事業 事業収入―必要経費―290万円≧0円 ※事業利益が290万円以上のとき
・法人経営 収入―経費≧0円 ※利益が0円以上のとき
個人事業主が事業税を課されないということは、個人事業の事業利益がそれほど多くないということです。それは事業を継続するうえであまり好ましくないので、個人事業主の多くが、事業税を課されていると考えられます。
そこで、個人事業を法人にすると。
事業を行っている者が個人事業主から法人に変わり、経営者は、個人で事業を営んでいる者に該当しないので事業税が課税されなくなり、個人の事業税を回避できます。
しかし、法人が、事業を営んでいる者になりますので法人に利益が発生したときは、法人に事業税が課されます。この法人の事業税を回避するには、法人の利益を給与などで支給して、法人の利益が発生しないようにしなければなりません。

⑩ 消費税の納税義務が最大2年間免除されます。
消費税を納める義務が、有るか無いかは、2年前の期間(基準期間)の課税売上高により判定します。
(消費税の納税義務の判定)
課税期間  課税売上高   基準期間               判定 
・第1期   500万円  なし                 納税義務なし
・第2期   700万円  なし                 納税義務なし 
・第3期  2000万円 (第1期  500万円≦1000万円) 1000万円以下⇒納税義務無し
・第4期  3000万円 (第2期  700万円≦1000万円) 1000万円以下⇒納税義務無し
・第5期   800万円 (第3期 2000万円>1000万円) 1000万円超 ⇒納税義務有り
・第6期  3000万円 (第4期 3000万円>1000万円) 1000万円超 ⇒納税義務有り
・第7期  5000万円 (第5期  800万円≦1000万円) 1000万円以下⇒納税義務無し
このように基準期間における課税売上高が、1,000万円を超えていると消費税の納税義務者となり、その期間の課税売上高について計算された消費税を納めなければなりません。
しかし、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であれば、消費税の納税義務者では無いので、売上代金といっしょに預かった消費税は、納める必要がなくなり、事業者の収入となります。
そこで、個人事業を法人にすると。
法人の設立以前については、法人として活動を行っていないので、法人の第1期の基準期間の課税売上高はゼロとなります。したがって、第1期は、消費税の納税義務者で無いので、消費税を納める義務はありません。
ただし、法人の資本金が1,000万円未満のときだけであり、資本金が1,000万円以上のときは、第1期及び第2期は消費税の納税義務者となります。また、資本金が1,000万円未満であっても、前期の売上が一定額以上になったときは、その次の期間は消費税の納税義務者となります。