戦略的に会社を利用してみませんか。Ⅴ
法人のデメリット(一般的なデメリット)
① 重要な意思決定には株主総会や取締役会の決議が必要となります。
個人事業主は、事業に関する重要な事項について、すべて個人事業主ひとりで決めることができ、実行することができます。しかし、法人は、日常の取引については、法人の判断で業務を遂行できますが、事業に関する重要な事項については、法律に基づき株主総会や取締役会の決議が必要となり、お金と手間がかかります。
具体的には、取締役会の議決が必要な事項として、重要な財産の処分や多額の借入などがあり。株主総会の議決が必要な事項としては、取締役や監査役の選任、取締役や監査役の解任、決算の承認などがあります。
② 経営に対する責任が重くなります。
個人事業主は、不法行為によって第三者に損害を与えない限り、事業の結果を第三者に問われることはありません。しかし、法人の役員は、株主から経営を委託されているので、株主の意向に見合う結果をもたらす義務を負います。もし、株主の意向と違う結果をもたらしたときは、その責任を問われることがあります。
具体的には、役員が法人と同じ業務を私的に行ったり、代表取締役が同業他社の代表取締役に就任したりし、もしくは、役員が法人と直接取引をして、法人に損失を与えたときは、その役員はその損失を賠償する責任があります。また、役員が重大な過失(粉飾決算など)により、第三者に損失を与えたときも、その役員はその損失を賠償する責任があります。
もっとも、中小企業に多い株主と役員が同一人物もしくは家族のときは、第三者に損害を与えた場合を除き、その責任はほとんど軽減されます。しかし、株主が第三者のときは、役員としての義務が求められますので、その責任を認識する必要があります。
法人のデメリット(お金のデメリット)
① 赤字でも法人の都道府県民税と市町村民税の均等割を支払わなければならない。
事業を長く続けていくと、業績が好調で黒字のときもあれば、業績が悪く赤字のときもあります。
個人事業主は、業績が悪く赤字で課税所得もゼロのときは、所得税などの税金の負担はなく、税金を納めなくてもかまいません。しかし、法人は、業績が悪く赤字のときでも、法人の都道府県民税と法人の市町村民税の均等割を納めなければなりません。
その理由は、この法人の都道府県民税と法人の市町村民税の均等割りは、法人の利益について課税される税金ではなく、その区域内で法人の事業所が存在するという事象によって課税される税金だからです。その結果、利益がゼロまたはマイナスであっても、事業所が存在すれば税金を納めなければなりません。一例として、法人の都道府県民税で年間2万円、法人の市町村民税で年間5万円もしくは6万円となっています。
② 社会保険の加入により費用が多くなります。
個人事業主の社会保険の加入要件は、サービス業や理容美容業を除いて常時5人以上の従業員を使用する個人事業主に限られており、それ以外の個人事業主は任意加入となっているので、ほとんどの個人事業主は社会保険に加入していません。また、社会保険に加入していても従業員だけの加入であり、個人事業主本人は、加入する必要がありません。
しかし、法人は、社会保険の加入が強制されており、役員とか社員とかに関係なく全員が社会保険に加入しなければなりません。そして、社会保険の加入により、健康保険料や厚生年金保険料の会社負担分の費用が、新たに必要になったり、役員本人の社会保険料が多くなったりします。
③ 会社設立などの登記費用が必要となります。
個人事業を始めるときは、特別の許認可を必要とする場合を除き、それほど費用をかけず個人事業をいつでも始められます。しかし、法人として事業を始めるときは、必ず法務局に登記をしなければならず、この法人の設立登記に費用が必要となります。
まず、定款認証を行うために公証人の手数料約5万円(別途4万円の収入印紙が必要な時もある)が必要となり。そして、法務局への申請のために登録免許税15万円(資本金1000万円のとき)が必要となります。
法人の設立後も、法人の商号変更や本店所在地の移転などは、登記事項を変更しなければならないので、その変更に費用が必要となります。また、役員の任意満了時の役員変更などは、頻度も高くその都度費用が必要となります。そして、その登記の変更が遅れると過料などの罰則が科せられることもあります。
④ 自動車保険や銀行手数料などの費用が高くなります。
事業活動において通常負担する費用で、その使用者や所有者が、個人事業主と法人とで費用が異なるものがあります。
その代表的なものとしてNTTの電話料金があります。個人用の住宅用回線より法人用の事務用回線の方が、タウンページ掲載などの特典はありますが、基本料金(回線使用料)が割高になっています。また、自動車保険なども業務で自動車を頻繁に使用すると事故を起こすリスクが高くなるので、法人で契約すると保険料が割高になります。それから、銀行等の手数料などもサービスに若干の違いがあり、比較は難しいですが、割高になっています。
⑤ 最低税率の違いにより税金が多くなります。
法人を設立して、その法人から経営者へ給与(役員報酬等)を支給すれば、経営者は給与所得控除の利用や所得分散による節税効果を得られますが、給与の見積を間違えれば、税金が増加します。
はじめに、給与所得控除の利用による節税効果を確認すると。
法人税は、法人の利益に基づいて計算します。
(法人税の税金)
・利 益=収 入-経 費-経営者の給与
・法人 税=利 益×税 率
また、経営者の税金は、給与収入に基づいて計算します。
(経営者の税金)
・給与所得=給与収入-給与所得控除
・課税所得=給与所得-所得控除
・税 金=課税所得×税 率
そして、法人と経営者を同一体と仮定して、法人のときの経営者の課税所得と個人事業主の課税所得を比較すると。
(同一体のときの課税所得)
・課税所得=(収 入-経 費)-給与所得控除-所得控除
(個人事業主の課税所得)
・課税所得=事業収入-必要経費-所得控除
経営者の課税所得には、給与所得控除の適用があり課税所得を減額するので、税金の節税ができることがわかります。しかし、実際には法人と経営者とを同一体として税金を計算することはなく、法人も経営者も別々に税金を計算します。
そこで、法人の利益を給与として適正に支給できれば、給与所得控除による節税が有効となりますが、法人の利益と給与とに大きな差が生ずれば、税金の負担が増加します。
給与の額が、収入から経費を差し引いた額より多けれ(給与>収入−経費)ば、法人は赤字となり欠損金を有効利用できますが、経営者は超過累進税率による高い税率により多くの所得税を支払わなければなりません。
また、給与の額が、収入から経費を差し引いた額より少なけれ(給与<収入−経費)ば、経営者は超過累進税率による低い税率により所得税は少なくなりますが、法人は法人税等を多く支払わなければなりません。その結果、所得税の税率と法人の税率の差額を余分に支払わなければなりません。
(法人の最低税率の計算)
・負担税目=法人税+地方法人税+法人府民税+法人市民税+事業税+地方法人特別税
・最低税率=15.0%+0.66%+0.48%+1.455%+3.4%+1.4688%
= 約22.4638%
⑤ 会計処理や社会保険などの事務の時間や費用が多くなります。
個人事業主の経理は、売上などの収入と必要経費の支出を集計し、その集計に基づき申告書を作成するといった程度でよく、それほどの厳密性は求められていません。
しかし、法人は、銀行や取引先などの債権者や株主から、過去の業績や同業他社の業績との比較も簡単にでき、業績内容を正確に反映した決算書の作成が義務付けられています。そのためには、統一された正確な基準による経理をしなければならないので、時間がかかります。また、決算や税務申告においても個人事業主にはなかった手続きを必要とするので、専門家のサポートを受けることが多くなり、その費用が多くなります。
※ その他 法人化すると税務調査が入りやすくなるって?